「夢がなかった僕が、本気で目指したいと思ったバーテンダーという仕事。偶発的な出会いが生まれる場所をつくれる人を目指す。」
「文化とビジネスの交点をいかにして生み出すか」をテーマに、人々の生活や営みの中にあるリアルを徹底的に見つめながら、様々な領域のデザインやブランディングを手掛けている301.inc(以下、301)のプロジェクトやビジネスとカルチャーを横断する情報をお届けするニュースレターをお送りしています。
朝はコーヒーから夜はカクテルまで、そしてオールデイで上質なフードを楽しめるように設計され、デザインスタジオとしての顔も持つNo.には、バリスタ、バーテンダー、シェフ、そしてデザインチームが同居する。飲食店としても多機能的で、かつデザインの領域の人々も出入りする総合的な場でbar部門を務める福岡さんにこれまでのストーリー、今後301、No.などを通してどのような人生を目指すのかなど幅広く聞いてみました。
Barは、ただお酒を飲む場所ではなく、人と人がつながり、心がほどけ、時には人生が変わるような出会いが生まれる場所。カウンター越しの何気ない会話の中に、その人の一日を少しだけ特別なものにする力がある。
「バーテンダーになりたい」と強く思ったことはなかった。けれど、気がつけばカウンターの向こうに立ち、お客さんの言葉に耳を傾け、グラスの向こう側に広がる世界を見つめている。なぜ、この道を選んだのか。これまでの人生を振り返りながら、その答えを探ってみました。
バーテンダー 福岡さん
「面白いことをしたい」という漠然とした思い
大学を卒業して東京での最初の仕事は、施工管理の会社でした。正直、就職活動そのものに熱意は持てず、「自分をよく見せる面接」が苦手で、適当に受かった会社に入社してしまいました。作業着を着て、毎朝、死んだ目で満員電車に揺られる日々が始まり、「これが一生続くのか」と考えたとき、どうしても耐えられないと思いながらも「1年だけ頑張ろう」と決め、期限を区切って働き退職を決意しました。
そんな時、大学時代の友人がよく通っていたNo.に出入りするようになり、本田さんと他愛もないコミュニケーションを取るようになり、急に本田さんから「やりたいことはないの?」と聞かれたのですが、その問いにすぐ答えることができなく、挙句の果てには「ありません!」と回答しました(笑)当時は、何かやりたいとは思っていたが具体的に何をすればいいのかわからなかった。そんな自分を見て、「興味があればやってみる?」と誘われ、考えた末、「やってみたい」と思い、バーテンダーの道をスタートしました。
未知の世界への入口。独自のコミュニケーションでお客様の居心地の良さを提供する。
入りたてのときは、Barのことは何もわからなかったく、レモンサワー、ハイボール、ビールくらいの知識しかなく、カクテルの世界はまったくの未知でした。それでも、不安はなかったです。ただ、「面白そうだな」と思いました。何かやりたいと漠然と思っていましたが、普通とは違うこと友達が誰もやっていないことをしたいと考えていました。理由はシンプルでこれまでの人生で、「周りと違う何か」に惹かれてきたからです。
最初の一週間は、何をしていいのかもわからなかったが、ご指摘いただいたことは全部やってみようと思っていました。「どんな時も所作が大事だよ」と言われた時、バーテンダーの仕事の奥深さに気がつきました。ただカクテルを作るのではなく、そのすべてに意味が込められている。僕は姿勢が悪いと指摘をいただくことが多いため、電車の中でもスマートに立つことや、ステアやシェイクの動きを一つひとつ意識すること、そのすべてがバーテンダーとしての姿勢につながっていることを学びました。
また、喋ることが得意なわけではないですが、カウンターに立つことで「人に話をさせる力」を意識しています。どうすれば相手が自然と話せるようになるのかを考え、映画やニュース、本を読んで引き出しを増やして共通の話題を作ることを大切にしています。加えて、お客同士の共通点を見つけてつなげることも、楽しみの一つです。カウンター越しにつながった人たちが、後日二人で店を訪れてくれたとき、心から嬉しいと感じて、バーテンダーは偶発的に人を繋ぐことが出来るやりがいのある仕事だなと感じました。
シンプルに「かっこいいバーテンダー」を目指して
いずれは九州に戻り、何かクリエイティブなことをしたいと考えていますが、具体的な形はまだ決まっていません。ただ、No.のように人の輪や、つながりを生み出すような空間をつくることには、強く興味があり、「偶発的な出会いが生まれる場所をつくれる人」になることが目標です。そのため、No.で吸収出来ることは根こそぎ自分のものにしたいです。
また、バーテンダーとしての自分の在り方にもこだわりを持ちたいです。「かっこいいバーテンダーになりたい」。それは見た目の話も、振る舞いや哲学を含めた意味でも「かっこよさ」です。ロールモデルは坂本龍一、彼のようにスマートで、深みのある大人の男性になりたいですね(笑)
これからも責任を持ってこの仕事に向き合い、切磋琢磨できる人たちと共に働きたい。ガッツがあり、面白い人たちと刺激を与え合いながら成長していきたい。目の前にいるお客さんが、ここで過ごす時間を楽しめるように。そして、自分自身も今を楽しみながら、この道を極めていきたい。
人と人を繋げるバーテンダー福岡さん。面白いことがしたいという漠然な理想から、決して話すことは得意ではないが、人を繋ぎ輪を作ることを日々の営業から体現している彼に今後も注目したくなる取材でした。
301について
文化とビジネスをつなぐことをミッションに、経済的な成功だけではなく文化を創造し新たな時代を切り拓くことを追求するブランドや事業の立ち上げに多数参画。企画・戦略から、コミュニケーション設計やクリエイティブ制作、運営フェーズの体制構築まで、一気通貫して手掛ける。
自社事業として、代々木上原の小規模複合施設『CABO(カボ)』のコミュニティマネジメントや、同施設の顔でありローカルや周辺コミュニティの交差点であるカフェ・バー・レストラン『No.(ナンバー)』の運営、2023年にオープンし話題となった池尻大橋の複合施設『大橋会館』のコミュニティマネジメントなどを手掛ける。リアリティのある自社事業経験と、300を超える0→1プロジェクトの経験の掛け算により、独自のサービスを提供している。
公式HP:www.301.jp





