barに来たことがない人でも、開きやすい扉を目指して 今日も祖母のように人の幸せを願うバーテンダー
「文化とビジネスの交点をいかにして生み出すか」をテーマに、人々の生活や営みの中にあるリアルを徹底的に見つめながら、様々な領域のデザインやブランディングを手掛けている301.inc(以下、301)のプロジェクトやビジネスとカルチャーを横断する情報をお届けするニュースレターをお送りしています。
朝はコーヒーから夜はカクテルまで、そしてオールデイで上質なフードを楽しめるように設計され、デザインスタジオとしての顔も持つNo.には、バリスタ、バーテンダー、シェフ、そしてデザインチームが同居する。飲食店としても多機能的で、かつデザインの領域の人々も出入りする総合的な場でbar部門リーダーを務める本田さんにこれまでのストーリー、今後301、No.などを通してどのような人生を目指すのかなど幅広く聞いてみました。
バーテンダー本田さん
バーホッパーだった母から教えてもらった、barでの幸福感
岩手県出身で、高校時代は建築土木を学んでいました。その流れで18歳から建築土木系の仕事を仙台で始めました。今までは、母と二人で暮らしていたのですが、初めての一人暮らしを経験しながら母が私を産んだ年齢(20歳)に私自身が達した時に、母のありがたみを改めて感じるとともに心から尊敬し、恩返しをしたいと強く思いました。母との時間を作るようになり、母はbarへ行くのが趣味だったため、その影響で20歳になり母とbarでお酒を交わす機会が増えたのが、barの世界を知ったきっかけです。
求めていた人生の新しいエッセンスはバーテンダーという道だった
建築の仕事にやりがいや、楽しさを感じてはいたのですが、心のどこかでこの仕事を一生やっていくことはないのだろうと思っていました。新しいエッセンスを求めていた時に、京都のLampbarに行き、衝撃を受けました。当時、カクテルの味については理解度も低い中で、衝撃的な味わいと幸せを感じました。それだけでなく、バーテンダーのホスピタリティや空間設計に驚きを感じ、特別な体験になりました。そして、カウンターの左端、重厚感のあるあの席で「僕はバーテンダーになろう」と決意したのを今でも鮮明に覚えています。その後、建築の仕事を退職し、バーテンダーを目指しました。様々な事情があり地元岩手で友人が働いているカジュアルなbarでバーテンダー人生の0ページ目が、スタートしました。
熱意で勝ち取った夢への第一歩
岩手で働いていたため東京のbarで働く方法や数ある飲食店の中でどんな店を選べばいいか分からず、決死の覚悟で、当時知っていたバーテンダー5人に長文で自分の気持ちを綴りSNSを通して伝えました。その中の一人、中村さんが親身になってアドバイスをくださり「もし、1週間後に東京来れるなら東京で活躍しているバーテンダーを紹介してあげるからみんんなで話そう!」と連絡が来て、迷うことなく1週間後、東京に向かいました。そこで出会ったのが、No.のドリンク開発を担当していた野村空人さんです。その場でバーテンダーになりたい気持ちを伝えたところ、翌日No.に連れて行ってもらい、空間やバーテンダー(荻島さん、荻原さん)の立ち振る舞いを目の当たりにして、「ここに立ちたい」と憧れを持ち働きたいと直談判しました。翌日、岩手に帰る予定だったのですが、5日後に面接が決定したため、延泊して東京にいた友人にスーツと靴を借りてNo.に面接に行きました。そしたら、「なんでスーツなの?(笑)」と驚かれました。ビシッとスーツで面接に行ったのは僕と当時のbar マネージャー荻島さんだけだったようです。笑そんなこともありながら熱意を伝え数週間後、No.で働くことが決まりました。
barに来たことがない人でも、開きやすい扉。軽い扉を開けた先には、重い扉を開いたとき以上の感動を提供する。
日本のオーセンティックなbarってどこか入りづらい雰囲気があると思います。それは意図的に現実世界とのギャップを作って特別な空間を演出しています。しかし、現実とのギャップにより、初めて行く方にとっては、barの扉が重く開きづらいものになってしまっていると感じます。一方で、No.は開放的な空間で入りやすく、気を張らない空間が設計されています。入ったら重い扉を開けたときと同様のクオリティとサービスを提供したいと心がけています。そうすることで多くの方にお酒や空間を通して、お客様の一日が少しでも幸せになっていただければと本気で思っています。大前提、重い扉のbarもリスペクトを持った上での価値提供を大切にしています。
未経験で夢がなかった後輩がバーテンダーを目指し、二人三脚で多くの方に幸せを届ける。
現在、福岡というスタッフと二人でbar部門を担当しているのですが彼との出会いも独特で、一緒に働く仲間を募集していた際に出会って「将来やりたいこととか、夢はある?」と聞いたところ、とてもすっきりした笑顔で「全く何もないです!」と答えられました(笑)その時、僕は僕の大好きなこの仕事(バーテンダー)を夢に持ち、人生の目標や生きがいを見出してくれたら嬉しいなという気持ちで声をかけ、二人体制がスタートしました。当初は週3での勤務予定でしたが、スタートして翌週から「フルタイムで働きたい」と本気でバーテンダーを目指す意思を示してくれてとても嬉しかったです。
祖母の教えのように多くの人にハッピーを届けたい人の幸せな瞬間に立ち会える人生を目指して。
僕の人生で大切にしていることは、「様々な景色(自身の思い出の場/他者との思いの場)を積み重ねること」「愛を与え、愛を受け取ること」です。No.のような誰でも入りやすいbarでありながら、高いクオリティ、ホスピタリティが提供できるからこそ、目標に近づけると信じています。最終的にはNo.を通して、お客様の幸せにより私自身も幸せを感じられる様なお店になれたらいいなと本気で思っています。他者の幸せを心から願う祖母のように。
本気で人の幸せを願っている本田さん。ここまで人のことを本気で考えて、夢や目標を立てるバーテンダーが他にいるのだろうか。彼の周りには自然と幸せが集まってくる、そんな人柄や想いが詰まった取材でした。
301について
文化とビジネスをつなぐことをミッションに、経済的な成功だけではなく文化を創造し新たな時代を切り拓くことを追求するブランドや事業の立ち上げに多数参画。企画・戦略から、コミュニケーション設計やクリエイティブ制作、運営フェーズの体制構築まで、一気通貫して手掛ける。
自社事業として、代々木上原の小規模複合施設『CABO(カボ)』のコミュニティマネジメントや、同施設の顔でありローカルや周辺コミュニティの交差点であるカフェ・バー・レストラン『No.(ナンバー)』の運営、2023年にオープンし話題となった池尻大橋の複合施設『大橋会館』のコミュニティマネジメントなどを手掛ける。リアリティのある自社事業経験と、300を超える0→1プロジェクトの経験の掛け算により、独自のサービスを提供している。
公式HP:www.301.jp